打って、守って、恋して。
「ヒットだ!」
綺麗で文句のつけどころのないヒットじゃないところが、彼らしい。
惜しいけどヒットはヒット、という感じ。
打球はセンター前ヒットになり、打った瞬間に走り出した二塁ランナーが全速力でホームを駆け抜けて、センターから戻ってきたボールを受け取ったキャッチャーはタッチが間に合わなかった。
「やった!まず同点!!」
凛子の勢いに押されて、一緒になって飛び跳ねて抱き合う。
当の藤澤さんは、バッターボックスに立っている時とまったく同じ表情で一塁に立っていた。
「いいぞー、職人!」
「フジ、お疲れー!」
口々に飛び出すおじさんたちの大声は、彼の耳に届いているのだろうか。
同点になったことで一気に盛り上がった応援席は、その後さらにボルテージが上がることになる。
私としては藤澤さんの同点タイムリーヒットはかなり胸熱な展開だったのだが、それ以上にすごいことが起きてしまったのだ。
三番バッターの選手が、スリーランホームランを打ったからだ。
これには凛子も大興奮。
「さいっこー!鈴本ー!!」
と、バッターの名前を叫んで、ぶんぶんと手を振っている。
私は密かに思っていた。
……彼の同点タイムリーが霞んじゃったな、なんて。
そんなことを思っていると、スリーランを打った選手が笑顔でガッツポーズをしながら一周してホームベースを踏む。
そばで待ち構えていた藤澤さんともう一人のランナーだった選手が、ホームランを打った選手とハイタッチしていた。
くるりとこちら側を振り返った藤澤さんの顔に、私はやられてしまった。
─────そうか、自分のことでは喜ばないけど、チームメイトの活躍ではこんなに笑うんだ。
それくらい、彼も笑顔でホームランを喜んでいたのだ。
「……かっこいい」
シンプルに、それに尽きる。
ちゃんと話したこともないくせに、ものすごく素敵だなと思ってしまった。
ファンってこうやってなるものなのかな。
私の「かっこいい」発言に、すかさず凛子が食いつく。
「え!?鈴本のこと!?ちょっとイカついけどまあまあ人気あるよ!」
「あ、えーと、うん、そう」
まあ、いっか。鈴本選手のことってことにしておこう。
ベンチに戻っていく彼の後ろ姿を双眼鏡で追いかけながら、会社へ申請する夏休みの日程のことで頭がいっぱいになったのだった。