打って、守って、恋して。
思わぬところで意気投合した栗原さんと私で、身を引く藤澤さんに集中攻撃をしかける。
「普通ならヒットになる当たりを、いつもただの内野ゴロに変えてくれるんですから。これってピッチャーからしたら、神のような存在なんです」
「打者のクセとかを頭に入れて一球ごとに守備位置変えてるって聞きましたよ。あと、明らかにとるの大変な打球を、軽くとっちゃうじゃないですか。だからすごいことしてるって気づきにくいんです。そこがいい!」
「石森さん……さすが分かってますね」
「それに、ピッチャーが少し調子悪くなった時に、さりげなくマウンドに行って声かけてますよね?ひと呼吸置かせることで、落ち着かせてあげてるのかなって思ってました」
「うんうん、俺もフジさんのあの気遣い、すっごく好き!」
「送りバントも絶対一発で決めますよね!?」
「テンポ作ってくれるんですよね!」
「─────もう、そのへんでいいです」
たたみかける私と栗原さんの褒め殺しに耐えられなくなったらしい藤澤さんは、お酒のせいなのか照れのせいなのか少し赤くなって顔を隠してしまった。
可愛いと思ってしまった不謹慎な気持ちを、気合いでしまい込む。
私たちの意見を総合して、沙夜さんがまとめてくれた。
「なるほど。つまり、二人とも藤澤さんのことが大好きなのね」
「そ、そ、それは……その……」
本人の目の前で「大好き!」なんて凛子じゃあるまいし言えないので、笑ってごまかした。
やっと顔の赤みが引いたらしい藤澤さんの右手のひらにちらりとマメが見えて、初めて会った時から気になっていたそれをじっと見つめる。
右手の下部に、たくさんのマメ。
練習を重ねることでできるものなのだろう。
努力の、証。
「藤澤さん。右手のマメ、痛くはないんですか?」
「え?あぁ、これ……」
指摘されて初めて気がついたみたいに、彼は右手を握ったり開いたりを繰り返す。
「痛くないです。もう昔からずっとこんな感じなので」
「ボールを握るとできちゃうマメなんですか?」
「いえ、これは打撃練習のマメです」
「打撃練習?」