打って、守って、恋して。
あれだけ守備がうまいのだから、てっきり守備練習でだきたものなのかと思い込んでいた。
やや驚きながらも、大きな手のひらから目をそらすことなくひたすら眺める。
「バットでできたマメってことですか?」
「そうです。俺の課題が打撃なのは、自分で分かってるので。でも、こればっかりはセンスもあるのでどうにもならないんです」
藤澤さんはゆっくり右手を握ると、なんとなく諦めたような、冷めたような口調でつぶやいた。
「派手にホームランとか打てたらいいんですけど。残念ながら二塁打で精一杯です」
「じゅうぶんですよ!」
「全然じゅうぶんじゃないです。ダメです」
ここだけは、きっぱりと譲らなかった。
今日しか話すチャンスがない。
今日しかこうして顔を合わせることがない。
今日しか近づけない。
そう思ったら、ついつい願望を口にしてしまった。
「あの!そのマメ、ちょっと触ってみてもいいですか!?」
変な意味じゃなく、初めて見た時から触ってみたかったのだ。
けっこう勇気を出して言い出したのに、彼はすぐさま右手を隠して目をそらしてしまった。
「嫌です」
ガーーーーーン、とショックを受けていると、沙夜さんが大笑いした。
「柑奈ちゃん、振られましたぁ!」
間髪入れずに栗原さんも呆れたように加勢する。
「フジさん、そんなんだから男性ファンばっかなんですよ!女性ファンを大事にしてくださいよ!」
「栗原は触らせるの?」
「はい、当然」
えっ、とうろたえる藤澤さんに見せつけるように、栗原さんは利き手である右手を沙夜さんに差し出し、彼女はそれをスリスリ触っていた。
この二人、本当に気が合ってるみたいで面白い。
「ダメだ、理解できない」
ぽつりとぼやいた藤澤さんは、右手を隠したまま苦笑いしていた。
お酒が入っていても、彼のガードはかたい。
それが分かっただけでもある意味収穫だった。