打って、守って、恋して。
「なんなら決勝で!逆転サヨナラ満塁ホームラン!どうです?私の夏休みの思い出にホームランお願いします!」
闘争心に火がついただろうと笑ってみせると、ここで初めて藤澤さんがごく自然に笑った。
「あはは、面白い人ですね。満塁ホームランなんて人生で打ったことないです」
「じゃあ人生初の、やりましょ!」
「ちなみに俺、高校から通算でホームラン十本くらいしか打ってませんよ。ホームランバッターじゃないので」
「……」
む、無理……かな、さすがに。
妙な沈黙が流れたので、無茶な発言を今さら激しく後悔する。
でも、なぜか彼はとても楽しそうに顔を綻ばせていた。
「ホームラン打ったら、何してくれます?」
「………………高いワインごちそうします」
「俺、ワインは飲みません」
「じゃあ焼酎!森伊蔵!」
「よし、のった」
人見知りの壁は少しは取り払えただろうか。
この、自然な笑顔を見れただけでも。