打って、守って、恋して。
ケラケラ笑う沙夜さんの声を聞きながら、栗原さんから預かったという封筒を開けてみる。
中には、今度の都市対抗野球のチケットが二枚入っていて、右下には「関係者席」の文字。
これは、まさか、特別席?
わなわなと手を震わせていたら、後ろから沙夜さんの嬉しそうな顔がのぞき込んできた。
「VIP席ってわけじゃないらしいんだけど、普通の席よりは見やすくていい席なんだって。みんなほとんど家族とか友達が来るみたい。栗原さんは特に誰も呼んでないから、柑奈ちゃんたちにあげるってさ」
「えっ、えっ、いいのかな」
「いいでしょ、本人がそう言うんだから」
「凛子に電話してもいいですか!?」
「ダメに決まってるだろー!仕事しろー!」
いいよ、という沙夜さんの返事を遮るように、先ほどよりもさらに大きな淡口さんの声。
「こらこら!仕事しなさーい!ここは学校じゃないんだぞー!」
「あっ、淡口さん、東京のお土産何がいいですか?」
「ええ?あー、夏休みで東京行くんだっけ?うーん、そうだな…」
うまく話をそらして淡口さんをいなしていたら、翔くんの「さすがっす」という感嘆のため息が聞こえた。
栗原さんにもらったチケットがなんだかものすごくプレミアムなものに感じてしまって、大切に封筒に戻す。
私と凛子は五日間しか行けないが、大会自体は十二日間かけて開催される。凛子の予想でやまぎんはいいところまで行くはず!ということで、決勝までのラスト五日間で休みを取得したのだ。
万が一その前にやまぎんが負けてしまっていたら、すべて意味のないものになってしまうのだが。
日程を見ると、おそらくもう間もなくやまぎんの野球チームは東京へ発つ頃だろう。
毎日試合速報をチェックして、負けないように祈るしかない。
「まだお昼前だから、今なら間に合うだろうから銀行に行ってきたら?」
ソワソワして落ち着かない私に、沙夜さんが冷やかし感覚でそんなことを言ってきたので「ダメですよ!」と口をとがらせた。
「そんな迷惑行為できません!」
「藤澤くんだって喜ぶと思うけどなぁー」
「いいんですってば!」
「いいから仕事しろおおおおおお!」
淡口さんの雄叫びが狭い事務所に響いたのだった。