打って、守って、恋して。
栗原さんがくれたチケットのおかげで、私たちの試合観戦はいつもに増してかなり有意義なものになっていた。
あのチケットは言うなれば「関係者パス」のようなもので、スタッフさんに見せるとあれよあれよとバックネット裏エリアに入ることができる。
席までは指定ではないが、ほかの席よりもじっくり観戦できるのでありがたかった。
家族連れや年配の人たちが多いので、家族席という方が近いのかもしれない。
第一試合のやまぎんを目当てに早くから並んでいる人は私たち以外にもいるかもしれないが、このあとさらに二試合続くのでそちらを目的にしている人も多そうだ。
「栗原さんは今日は投げないのかな?」
私が尋ねると、どうだろうと凛子は難しそうな顔で眉を寄せた。
「明日か明後日に温存する可能性もあるわね。この間投げた日も調子よかったみたいだし、いいところで投げさせたいってみんな思ってるだろうから」
「プロのスカウトマンとか来てるんだよね、きっと…」
「そりゃあ来てるよ!栗原だけじゃなくて、他にもたくさん候補はいるからね」
手を挙げてくれるところがあれば、プロに進みたい。
そう話していた栗原さんの夢が実現するかもしれない、大事な大会というわけだ。
やがてドームは開場になり、一人一人簡単な荷物検査やボディーチェックを受けて中に入る。
私たちは関係者席のチケットパスを見せて、すんなりバックネット裏へと足を踏み入れた。
「やっと凉しくなった…」
空いている席に腰かけて、持っていた荷物を下ろす。
早速、やまぎんカラーの青い帽子やユニフォームを身につけた凛子が、双眼鏡を取り出してグラウンドを入念に見回していた。
すでに試合前の練習をしている両チームの選手たち。
凛子はおそらく栗原さんの姿を探しているに違いない。
「どう?いた?」
扇子で仰ぐとようやく涼しい風を感じるようになったので、まだ火照っている身体を冷やしながら凛子に目を向けた。
彼女はなんとも言えない低い声で唸るばかり。