打って、守って、恋して。
「うーん、見当たらないなあ。ドームだとブルペン見えないし、なんとも言えない」
「エースは温存かもね」
「うん、可能性は高いかな。……あ、藤澤職人」
「え!?どこ!?」
いきなり食いついた私の反応で凛子はアハハと猛烈に爆笑し、ぽんぽんと肩を叩いてきた。
「打撃練習してるよ。……ねぇ、柑奈」
即座に自分の双眼鏡で藤澤さんを探す私の耳元に顔を寄せると、
「藤澤職人、どうだった?本人と間近で話したんでしょ?」
と聞いてきた。
どうと聞かれましても。答えようがない。
色々ありすぎて、どこから話せばいいのやら。
「それは前にも話したじゃない。愛想がないんじゃなくて、単に彼は人見知りで…」
「じゃなくてー。野球選手として好きなの?それともあわよくば付き合いたい?」
「つ、付き合う!?」
滅相もない!と言い返すと、凛子は不満げに唇を噛んだ。
「そういう可能性だって無きにしも非ずでしょー。あっちだって独身なんだし、プロってわけじゃないからサクッと恋愛に発展させることだって可能よ?」
「一度飲んだくらいで勘違いするほどバカじゃないよ」
「何言ってんのよ!柑奈の先輩はしっかり栗原と連絡先交換したんでしょー!!許せない!」
「私は交換してないし」
また飲もうね、と栗原さんには言われたような気がしたけど、藤澤さんとはこれと言って次の約束をとりつけてはいない。
あの無茶ぶりとも言える私の「ホームラン打ったら森伊蔵」発言を、彼がどう捉えるかにもよるが。
あれはお酒を飲んだ勢いで言った、単なるファンの戯言みたいなものと思われてそう。
カーン!いう音が鳴り響き、藤澤さんの打ったボールがすごい速さで飛んでいき、ドームの左中間フェンスに直撃した。
「東京ドームって狭いから、ホームラン出やすいんだよねぇ」
何気なくつぶやいた凛子の言葉に、どきっと胸が弾んだ。
「ここって狭い球場なの?」
「うん、全国的にも狭い方かな。だからけっこう今大会もホームラン量産されてるじゃん」
「……知らなかった」
じゃあ、本当に藤澤さんがホームランを打つ可能性もあるのかな?
森伊蔵っていくらするんだっけ…。
知らないとはいえ、けしかけたのは私なのであとには引けない。