打って、守って、恋して。
柵越えまではしない藤澤さんの打球を横目に、彼の今大会の成績を確認する。
これまで二試合を終えて、コンスタントに安打を重ねている。
盗塁もひとつ。エラーはもちろんなし。
いつも彼はそうだ。
まだ数試合しか見ていないからちゃんとしたことは言えないけれど、彼は抜きん出て打つわけではないが、ノーヒットで終わったのは見たことがない。
打順が二番ということもあり、基本的にクリーンナップに繋がるような打撃をしているように見える。
「俺が試合を決める」というのではなく、「あとは頼む」みたいな。
それも個性や性格なんだろうけど、彼のファンとしては少しは目立ってほしいという気持ちがフツフツと湧き上がってくる。
どうしたら彼の心に火をつけられるのだろうか。
藤澤さんの打撃練習が終わったあたりで、今日のスタメンの発表があった。
「投手 栗原」の文字が見えて、凛子が小さな悲鳴を上げていた。
「全力で応援するわ!」
と意気込んでいる。
「私も、応援する」
あんなにマメができるくらい努力してるんだから。
守備だけじゃないってところを、見せつけてほしい。
今日の藤澤さんは、冴え渡っていた。
飛んでくる打球を、とる、とる、とる。
先回りして、正面でとる。
鋭いライナーも涼しい顔で軽くとる。
さすがにセンター前ヒットでしょ、という当たりになった打球も二塁ベースの後方でダイビングキャッチをすると、倒れ込みながらも目にも止まらぬ速さで二塁へお得意の、グラブトス。
そのままボールはショートから一塁へ送られ、見事なダブルプレー。
一連の流れがあまりにも綺麗すぎて、瞬きするのも忘れた。
「今の見た?」
「神業すぎる……」
「飛んでから投げたんじゃないよ、あれ。飛びながら投げてたよ」
「あーーーリプレイしてほしい!」
私たちの会話を聞いていたわけではないだろうが、たぶん相手チームの関係者らしい若い男性たちが「なんなんだよ!むかつくな!」と悪態をつくのが聞こえた。
「あっちのセカンド、うますぎて反則だよ!左投げのくせによくやるわ」
「一二塁間にゴロ打ったらアウトになるな。三遊間狙った方がよさそう」
「なんて名前?」
「えーっと藤澤だって。知らねぇ」
彼らの会話に今すぐ割って入り、「日本代表だよ!侍ジャパンだよ!」と言ってやりたくなったけれど、ぐっと我慢した。