打って、守って、恋して。
「今日は栗原あんまり調子よくないなー。決め球のチェンジアップがブレてる。チェンジアップの善し悪しでその日のバロメーター決まるんだよね、栗原って」
鋭い分析力と観察力が、どう考えても野球経験者のおじさんのように見えてしまう凛子の解説で、私はすっかり心配な気持ちになった。
「完投できそう?」
「うーん、球数けっこう投げてるし、この回で交代かなあ。職人にかなり助けられてるね、今日は」
「藤澤さんは調子悪い時ってないのかなあ」
「本人に聞けば?」
「なーんか凛子トゲある〜」
一緒に飲んだこと、根に持ってる!
試合は終盤八回裏。この時点で4対3の接戦。
やまぎんがリードはしているが、今日の栗原さんの調子から見るといつ逆転されてもおかしくはない。
今現在も、さっきのダフルプレーでツーアウトにはなったものの三塁にランナーがいる。
一本単打が出ただけでも同点にされてしまう場面である。
緊張感が漂うマウンドへタイミングを見計らうように藤澤さんが歩み寄り、栗原さんへなにか声をかけているのが見えた。
藤澤さんの声がけに栗原さんが何度かうなずき、するりと二人が離れる。
ああやって、仲間をさりげなく気遣えるのってすごいな。
自分だってピリついたこの空気の中で二塁手という仕事をこなさなければならないのに、仲間のために立ち回れる優しさが、遠く離れた応援席からでも感じ取れた。
野球のことはまだかじった程度にしか分からないが、彼がいい選手であるということは、自信を持って言える。