打って、守って、恋して。


「別に何者でもなんでもないわよ、やまぎんの野球チームに所属する二塁手だよ」

「え?なに?野球チーム?」


まくし立てられるように矢継ぎ早にしゃべられたので、私は向かいの席に座る凛子へ聞き返す。
お互い手には生ビール、そしてテーブルにはお刺身の盛り合わせとサクサクの天ぷら。まさに女子会の真っ最中である。

まるで分かっていない私の心中を察し、あぁそうかと凛子は呆れたように手を額にあててため息をついた。

「忘れてたわ、柑奈が大の運動音痴だってこと…。だからスポーツ全般嫌いなのね?」

「たしかに運動音痴だけど、嫌いなわけじゃないよ!興味ないの!」

「似たようなもんでしょ」


こちらとしては同じ意味では使っていないのだが、凛子はかまわずに話を進める。

「ねぇ、柑奈!藤澤職人よりももっとすごい超絶イケメンいなかった!?銀行の奥の方に!最高に整った顔立ちの、すっごいかっこいい人がスーツ着て仕事してなかった!?」

「藤澤職人って何?麺職人みたいで面白いね」

インスタントラーメンなら好きだよと笑いながら言うと、「人の話を聞けー!」とわざとらしく凛子が声を荒らげる。
酔っ払ってるわけではなく、こういうやりとりは私たちの中では毎度恒例だ。

「イケメンいなかったかって聞いてんのに!」

「藤澤職人って何?」

「まだそこ掘り下げる!?」

「気になるんだもん」

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