打って、守って、恋して。

それに、彼のことを調べるうちに(ストーカーとは違うはず!)凛子は「打撃がパッとしない」と言うが、そうではないことが分かってきた。

藤澤さん本人から聞いた「打撃が課題」というのは、おそらく「試合の勝利を決めるような打撃ができない」ということなのだと思う。要は、ここぞという時にホームランが打てないというだけ。

でも、これまでの試合を振り返ってみても、大事な場面ではきちんと打者を返すような打撃をしていたし、三振をすることもなかった。
得点圏にランナーがいる時には、それなりの打撃をしていたように思えた。言うなれば、繋ぐ打撃。これこそが一番難しいように見えるのだが。


「私の夏休みの思い出にホームランを打ってください」なんて申し出をしたのを後悔してしまった。

狙って打てていたら、今まで苦労しなかっただろうから。


はあ、とため息をついていたら、相手チームの打者が外野へ大きな当たりを打った。
大きな歓声が上がり、ドームにいる全員が打球の行方を見守る。
打者はその先を確信して、笑顔でガッツポーズを決めた。

打球は弧を描いて、右中間スタンドへと吸い込まれていった。
逆転ホームラン。

「ああっ、嘘でしょ……」

両手で顔を覆った凛子が、落胆した声でつぶやくのが聞こえた。もう彼女は双眼鏡を見ていない。

肉眼でも、栗原さんががっくりと肩を落として下を向いているのが分かる。
帽子を目深にかぶり直していたので、表情までは分からないが悔しいのだろう。

今日負ければ、もうこの大会は敗退なのだ。
優勝するには勝つしかない。

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