打って、守って、恋して。

「もう次の回でせめて同点にならなきゃ勝てないよー!やばい!」

と、凛子が嘆く。

全国の強豪がひしめく大会で、接戦を繰り広げられるのは素晴らしいことだ。だけど、結果が残せなければどうにもならない。


相手の勝利ムードが漂う中、なんとか次の打者を内野ゴロに仕留めた栗原さんが、うつむきながらベンチへ戻っていく。
そんな彼の背中を、グローブでポンと軽く叩いて追い越して行ったのが藤澤さんだった。

そのあとは二人ともベンチへ行ってしまったので、姿は見えなくなった。


九回表、山館銀行の最後の攻撃。
ここで最低でも一点入れて同点に追いつかなければ、延長戦に持ち込むことも出来ずに試合は終了する。
せめて延長戦にするためには、やはり大事なのは最初の打者だ。

『二番、セカンド、藤澤』

場内アナウンスが流れ、またしても私の胸がどきりとした。

この回の先頭打者は、藤澤さん。
追い詰められた状況で、彼はいったいどんなバッティングをするのだろう。

いつものルーティンでバットを持った左腕をぐるぐる回しながら、彼がバッターボックスへ入っていく。

私と凛子は、もはや会話もなくただ祈るように手を組んでグラウンドを見つめていた。

相手チームは勝利を確信しており、すでに応援団は笑顔でメガホンを鳴らしている。
やまぎんの応援歌など、かき消されてしまっていた。

< 51 / 243 >

この作品をシェア

pagetop