打って、守って、恋して。
バッグからルールブックを取り出そうとしたあたりで、凛子に肩を叩かれて顔を上げる。
やまぎんの選手が一同揃ってベンチから出てきて、帽子を取って各方向へ深く頭を下げていた。
「明日、決勝だからね。挨拶みたいなものよ」
ぽつりとつぶやく凛子の言葉を聞きながら、深々と綺麗な角度で頭を下げている藤澤さんを見つめた。
今日の彼は、四打数二安打、二打点。そのうちスクイズであっさり決めた一点も含まれている。
堅実な守備はもちろんのことながら、今日はチーム全体が打撃の調子がよかったのでその波に乗った感じだ。
派手にホームランを打った四番打者と六番打者が目立ってはいたが、藤澤さんのやる野球はつねに変わらず「次に繋げて確実に勝つ野球」。
点差があってもブレない彼のスタイルだと思った。
帽子をかぶり直したやまぎんの選手たちは、私たちの声援に応えるとベンチへと戻っていった。
「コールドゲームとは……なるほど、何らかの理由により審判員が打ち切りを命じた試合のこと。理由については大会要項や気象状況など様々。ふぅん、じゃあ今回は点差が開いたからコールドゲームになったってこと?」
その場に腰を下ろしてルールブックを読み上げると、凛子がうなずく。
「そう!たしか七回まで十点差開くとコールドゲームだったかな?決勝はコールドゲームはなしだから、明日は最後まで見られるよ」
「なんか緊張するね、明日決勝かあ」
「栗原投げないかなー!」