打って、守って、恋して。
「ノーアウト一、二塁。これは大チャンスだよ。打順も一番に戻ってきたし!」
今日の一番打者の選手はかなり調子がいい。
凛子が大チャンスと言うのもうなずける。なにしろ今日はすでに三安打していたからだ。
やまぎんの応援席からは大音量の「加藤!加藤!」というコールが響く。
相手チームのバッテリーが主審に声をかけてタイムをとる。
キャッチャーがピッチャーへ歩み寄り、一言二言打ち合わせたあと即座にポジションへ戻った。
そのキャッチャーが、座らずに立ったままバッターボックスから少し離れたところに移動する。
「え!?まさか……」
びっくりしたように目を丸くする凛子に、私はわけが分からず「なに?どうしたの?」と尋ねた。
「敬遠だよ。もうバッターとは勝負しないでフォアボールにしちゃうの」
「満塁になっちゃうのに?」
「そういう作戦。塁が埋まってる方がダブルプレー取りやすいからね」
「ダブルプレー狙われてるってこと?」
「というか、まあ、今日当たりまくってる打者と勝負するよりは……。藤澤と勝負した方がいいっていうバッテリーの判断でしょ、これは」
「…………はぁーーーーー!?」