打って、守って、恋して。
今度は彼と二人で

山館銀行が優勝した翌日、北海道へ帰ると地元はそこそこ大騒ぎになっていた。
地元紙の新聞の一面にバーン!とまではいかなかったけれど、スポーツ欄には大きめのスペースで記事が載っており、写真もいくつか掲載されていた。

監督を胴上げしている写真、投球している栗原さんの写真、ホームランを打って打球の行方を見ている四番打者……
悲しいかな藤澤さんの写真は一枚もなく、全体写真にも見当たらない。たしかにいたはずなのに。


「ファインプレーもたくさんあったし、いいところでも一応打ったりしてたんですよ!」

会社で毎日とっている新聞を広げている淡口さんの横で文句をたれ続ける。

「大会の優秀選手にも選ばれたんですから!ほら、見えますか?“藤澤旭”って載ってますよね!?」

「すまん……老眼だからいまいちよく見えない」

「なーんで老眼鏡持ってないんですかあ!」


仕事中に話すと怒られるから、お昼休みにこうしていつものメンバーをつかまえて、東京で過ごした五日間の思い出話を聞かせていた。

ちなみに、藤澤さんは優秀選手に選ばれたものの他にもたくさんいて、スポットが当たったのは最優秀選手になった四番打者の選手だった。
まあ、大会中はホームランも量産していたし、納得といえば納得なのだが。

「まさか本当に優勝しちゃうなんてびっくりよねー」

お昼ご飯をすでに食べ終えた沙夜さんが、堂々と化粧直しをしながらうふふと笑う。
彼女はパウダーファンデーションをお肌にパタパタして鏡を見たまま、「でもさあ」と続けた。

「優勝しちゃうと、それなりにファンとか増えちゃうんじゃないの?栗原くんなんてイケメンだから、女性ファンが銀行まで押しかけてきそうよね」

「藤澤さん目当てに窓口に行く人もいたりして……」

「いるかもよー。柑奈ちゃんも行けば?ATMじゃなくて窓口でお金をおろすとか」

「め、迷惑行為ですよ、それ」

「なんで?お金おろすだけじゃなーい」

そういう問題じゃないのだ。
ミーハーなファンがやりそうなことは、できることならやりたくない。

< 76 / 243 >

この作品をシェア

pagetop