打って、守って、恋して。
「優勝おめでとうございまーす!かんぱーい!」
両者共に、仕事帰りに集まった。
前に一緒にお酒を飲んだあの居酒屋で、今度は隣同士のテーブルではなくちゃんと同じテーブルで。
沙夜さんがビールが注がれたグラスを掲げると、そこにカチンと二つのグラスが当てられた。私のグラスも遅れて乾杯に参加した。
沙夜さんと私が隣り合って座り、彼女の向かいには笑顔の栗原さん、そして私の向かいには藤澤さん。
真正面から彼の顔を見るとか死にそう。
「ありがとうございます!試合、楽しめましたか?」
栗原さんは当たり前だけど今日もかっこいい。
スポーツ選手にしては少し長めの髪も、きちんと整えられているから清潔感があるし、なにより試合中に帽子を外して汗を拭う時に揺れる髪がちょっとセクシーだったりする。
本人に自覚がなさそうなのがまたいいところだ。
「栗原さんの決勝の時の気迫がすごかったです。遠くから見ていても分かるくらい、勝ちたいって気持ちが表れてて。一緒に行った友達がずっと双眼鏡で見つめていました」
本当の話をしたのだけれど、彼はなぜかあっけらかんと笑って手を振っている。
「準々決勝が不甲斐なかったから、リベンジに燃えてただけです。お友達にもよろしくお伝えください」
はい、と返しながら、色々なことを思い巡らせる。
お世辞だと思ってるのかな?彼はもしや、自分がモテることに気づいてないパターンなのでは?
最初はテーブルに並んでいたのはお通しだけだったはずなのに、気がついたら串カツやらサラダやらお刺身やら、たくさん料理が出ていた。
予約をしてくれたのは沙夜さんだから、今日はコース料理なのかも。
その沙夜さんはもじもじしている私に気づいたのか肩に手を乗せるとニコッと笑った。
「柑奈ちゃんは、会社でもずっと藤澤くんの話をしてるんだよ!なんだっけ?ダイビングキャッチ?あれがすごかったとか、スクイ……あれ?なんだっけ?」
言葉を懸命に思い出そうとしている彼女をフォローするように、栗原さんが「スクイズ?」と首をかしげる。
「あ、そうそう、それ!スクイズのおかげで優勝したとかね。ね?」
「は、はい!だって、本当にいいところでアウトにしたり、打ってくれたりで。私の中では最優秀選手でした」
いきなり話を振られて、しかも内容が褒めちぎられた内容なだけに、藤澤さんはひたすら困惑したような表情をしていた。
「ありがとうございます。……でも」
でも?と、私たち三人が藤澤さんを見つめると、ぼそりと答えた。
「ダイビングキャッチは、ファインプレーではないので」
「え!?そうなんですか!?」