打って、守って、恋して。

「あの、聞いてもいいですか?」

ようやく私の緊張もほぐれて、やっと藤澤さんの顔を少しはちゃんと見られるようになってきたあたりで、気になっていたことを持ちかける。
彼は「はい」と串カツを食べながら目だけを私に向けた。

「ジャンピングスローとか、グラブトスとか、いつもすごい技を繰り出すじゃないですか。あれはあの場で思いついてやるんですか?それともちゃんと練習してるんですか?」

「練習してます、全部。練習でできないことは試合ではできないので、色々な打球を想定して全部やってますね。特に二遊間の連携は密にしてます」

「わぁぁ、どんな練習してるんだろう。すごそう」

「めちゃくちゃ地味な練習ですよ。同じことの繰り返し。それを何時間も」


会話が弾んでいることに幸せを感じながら、相槌をうつ。

数日前に東京ドームで試合をして大会で優勝していたチームの人が、目の前でビールを飲んでいるとか信じられない。
あんなに遠く感じていたのに、今はすごい身近に感じた。

「うちのチームの練習は一般の人も見学できるんですけど、きっと守備練習は見ていても退屈だと思いますよ」

練習を見学できる!?

何気なく彼が言ったその事実に衝撃を受けながらも、私ならたぶんどんな地味な練習でもずっと見てられるんだろうなと思ってしまう。

「練習って見学できるんですか?」

さりげなく練習見学のことを拾い上げて聞き返すと、藤澤さんはうなずいて携帯でなにやら調べ出した。

「練習してると、見に来てる人たちがいるので。可能だと思います。……あ、ほら」

自社のホームページを確認してくれていたらしく、差し出された携帯の画面にはやまぎんの野球チームの練習スケジュール。
身を乗り出してのぞき込むと、彼も同じようにのぞき込んで二人で画面を眺めた。

「あれ、土日はオフなんですね。練習はしないんですか?」

「まあ俺たちは一応、あくまで会社員なので。仕事の一部と見なされて休みになります。大会前なんかは自主トレって言いながらみんなで集まったりしてますけどね」

「冬の練習はどうしてるんですか?雪とかあったらグラウンド使えませんよね」

「……石森さんっていつからやまぎんの応援に来てるんでしたっけ?」

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