打って、守って、恋して。
過呼吸になるかと思うくらい息が詰まりそうになったけど、動揺を顔にはなるべく出さないようにして何度かうなずく。
意味もなく凛子たちに聞かれてないか気にしてしまったけれど、彼女たちはこちらを見てもいない。
来週から合宿だから当分行けないとか、またいつか行こうとか、曖昧に先延ばしされるのかと思っていたので驚いた。
律儀というか、彼の性格がこれでまた少しつかめた気がする。
「私は今週は何も予定はないので、いつでも」
スケジュールを確認するまでもなく言えてしまう自分が虚しいが。来週の方が忙しかったので、今週でよかった。
「練習がある平日だと前みたいにけっこう遅くなるので、土日は?」
「土日!?今週末は空いてますけど……」
「じゃあどっちかで。……あ、だめだ、もう時間ない」
どっちかって、どっち!?
携帯に予定を入れようとしていた私が戸惑って目を泳がせていると、どうやら本当に時間切れになった様子の藤澤さんが栗原さんに声をかけていた。
「栗原、もう行かないと」
「あ、はーい」
凛子と話していた栗原さんが明るく返事をして、失礼しますと微笑んで藤澤さんと肩を並べる。
手の中に携帯を握ったままの私がぼんやりとその場に立ち尽くしていたら、くるりとこちらを振り返った藤澤さんが
「あとで栗原から相田さんに連絡先聞いてもらうので、その時にまた」
と微笑む。
それが私に向けられたものだというのはすぐに分かったので、小さく笑った。
なるほど、沙夜さんから伝えてもらうということか。
彼たちは別れの挨拶もそこそこに、急ぎ足で行ってしまった。
満面の笑顔で見送った凛子が表情はそのままに、彼らに手を振りながらなんだか含んだように
「─────今の、なに?」
と聞いてきた。
「…………さあ」
「いや気になるから!」
「私だってまだよく分かってないもんだもん。ほら、私たちも会社戻ろ!お昼休み終わっちゃう!」
「柑奈!いま絶対ごまかしたよね?」
ごまかしてないよ、といまだにしまっていない携帯をぎゅうっと握りしめた。
この携帯に、そのうち彼から本当に連絡が来るのだろうか。
なんだか信じられなくてちょっと夢見心地のまま、会社へと戻ったのだった。