【短】分かって気付いて傷付けて…
3.
貴方のいない世界なんかいらない。
そんなもの見たくない。

逸らさないで、こっちを向いて…。
本当はそう思うのに。
天へと願い続ける…この手のひらの温度を一つにしたいと。
だけど、それはもう叶わないから。

「追いかけて来てよ…ばか…」


私の声は、春の柔らかな風の中、冷たく響いた。
とぼとぼと、一人街を彷徨って俯いていたら、酷く自分が惨めになる。


ねぇ、あの初めてキスをした時の事、手を繋いで抱き締め合った夜の事、覚えているでしょう?
もう…忘れてしまったの?

あんなに…あんなに、幸せでいっぱいだったのに…。

あのまま彼女に奪われるくらいなら…私から手放したほうがいいと思ったの。
だって、同じような恋なんて、いらないでしょう?

「…っ」

色んな思いがぐるぐると頭を巡って…気付いたらしゃがみ込んで泣き出していた。


でも…。
泣いて泣いて、泣き止んだ時、私は前だけを向いて…完全に貴方から離れよう。


< 14 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop