【短】分かって気付いて傷付けて…
「なんで…」

「うん…」

「なんで、今更…っ」

「うん…」

「そんな事、言うのよぉ…っ」


零れ落ちる涙は、灼けるほど熱く堪える事も出来なかった。

「ごめん。でも、好きだ。これだけは言える、何度でも。好きなんだ。忘れようと思ったけど…あの日再会して、捨てるって言ってたぬいぐるみをそっと持ち帰ってくれた煌が、やっぱり凄く好きで…本当に、ごめん」

彼の話では、あの時彼女は他校の男子との子供が出来たかもしれないと、一部で噂になっていたらしかった。
その相手の親と、彼女の親が事を大きくしていたのを、彼達が尽力して、なんとか問題にならないよう、終息させたんだという。


私が浮気だと信じて止まなかったのは、高校生なりに色々と大人の間に入り、神経を擦り減らしていただけで、けして私以外を見ていた訳ではなかった……。

「泰己のバカ。私がどれだけ…っ」

「…うん。俺も煌に振られて、最初は意味分かんなくて、すげぇ傷付いた。けど、よくよく考えたら全部俺のせいだって気付いた…ごめん」

「もう、ごめんは聞き飽きたよ……っ」

「うん…好きだ。大好きだよ、煌…」

「うん、うん。私も好き。でも………」

「いいよ。今度は俺が奪うから。他の誰かを傷付けても…自分が悪者になっても。煌だけは渡せない。それだけは…分かってる」

彼の言葉がすっと胸に入って来る。
私は溢れた涙を拭う事も忘れて、スマホを握り締めた。

「私も気付いたの…泰己しか、いらないって…」

「じゃあ、気持ちは一緒だな」

「うん」

「じゃあ…明日。必ず迎えに行くから…」

「うん…」

「もう、泣くな…」

「うん…っ」

「じゃあ……」


ぷつん…


切れたスマホは無音のまま画面が閉じられた。
< 25 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop