死にたい君に夏の春を


帰ってきた頃、九条は起きていた。


「あ、おかえり」


暇そうに床に座りながら、カップ麺を積んで遊んでいた。


「元気かよ……」


あの熱と苦しそうな顔はなんだったんだ。


虚勢を張っているのではなく、普通に治りかけているのだろう。


恐ろしい回復力である。


自分で治せると言ったのは、あながち間違っていなかったのか。


「頼んだもの買ってきた?」


「買ったけど、その前にご飯だろ」


ビニール袋からお粥を2つ取り出す。


その時、一緒に入れてあったチョーカーが見えた。


今……ではない気がする。


またタイミングのいい時に渡そう。


ビニール袋を九条から見えないところに置いた。


そして電気ポットに水を入れ、沸いたらカップに注ぐ。


蓋をしてスマホで三分設定した。


「高階くん携帯持ってたんだ」


2人で長机を挟んでパイプ椅子に座る。


「あんま使わないけどね」


父親が勝手に買って持たされただけである。


「私も持ってるよ」


彼女は立ち上がると、部屋の隅に置いてあったビニール袋の中身をまさぐる。
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