死にたい君に夏の春を
お粥を完食し、九条はシナモンロールの袋を開けた。
手のひらサイズのものを大きく口を開けて頬張る。
美味しそうにもぐもぐと食べている。
さっきより機嫌が良くなったようで安心した。
「高階くんは食べないの?」
「うん、僕はいいや」
「そっか」
頼まれた物だけ買ってきたから、自分の分も買う考えはなかった。
「なぁ、なんで今シナモンロールなんだ?」
彼女は口の中のものを噛んでから、ごくんと飲み込んだ。
「夢で、お母さんが出てきたの」
母親。
あまり聞きたくない言葉だ。
「……それで?」
「小さい時に、よくシナモンロールを作ってくれたんだ。それを思い出して食べたくなった」
思い出。
「夢を見るまで名前は忘れてたけど、やっぱりこれって美味しいね。この味だけは覚えてる」
なんだこれは。
なんだこの苛立つ気持ちは。
彼女の幸せそうな顔を見ると、イライラする。
いつまでその眩い思い出話を聞かされるんだ。
「お母さんに、会いたいなぁ」
思わず、僕は勢いよく立ち上がった。