死にたい君に夏の春を


炎天下の中、あてもなく歩き続ける。


何故僕はあんなことを口走ってしまったんだ。


1度は抑え込んだはずなのに、我慢しきれなかった。


溜めに溜めた水が一気に溢れ出たように。


九条のあんな顔、初めて見た。


あれが父親に虐待を受けている子の顔なのか。


恐怖に怯え、ただ謝るしかない姿。


九条の目には、僕が虐待をする父親のように見えたのだろうか。


とんでもないことをしてしまった。


悔やんでも悔やみきれない。


あの時爆発した感情は多分嫉妬だ。


親に相手すらされない僕と違って、母親に愛されている九条を羨ましいと思ったのだ。


今まで彼女に対して普通に接することが出来たのは、僕が優越感を抱いていたからだ。


虐待といじめを受け、満足な教育もさせられていなかった不幸な人を見て、自分の方がマシだと安心していた。


でも、1番不幸なのは僕だった。


まるで、感情を知らずただ知識だけをインプットしたロボットのよう。


相手のことも考えず、ただの嫉妬で傷つけてしまった。


夜、苦しそうに唸っている九条のことを忘れたのだろうか。


こんな自分が嫌で消えてしまいたくなる。


こんなんじゃ、もう顔を合わせられない。
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