死にたい君に夏の春を


ふらふらと歩いていたら、公園についた。


この前、織部と待ち合わせをした場所だ。


誰もいなくて、ただ静かな風が吹いているだけ。


僕は公園のベンチに座り、スマホを出した。


こんな時、メールで謝れたら良かったのに。


それならあの怯えた顔も見ずにすむ。


僕の連絡先には、大して話さないどうでもいい奴ばかり。


大きくため息をついて、空を見上げた。


鳥が一羽、飛んでいる。


優雅に、けれど孤独に。


その鳥はすぐ近くの木に止まり、巣へ戻っていった。


孤独なのは、僕だけか。


また携帯に視線を戻し、何も考えず適当にタップする。


すると、ニュースの欄に気になる見出しがあった。


『中年男性 女子中学生に暴行し逃走』


この間、新聞に書いてあったこととは違う。


事件が起きた場所はここの近くだし、つい最近の出来事らしい。


記事にはこう書いてあった。


『19日の20時頃、〇〇市内にて中年男性が通りすがりの女子中学生に暴行し、逃走した。犯人は被害者のすれ違いざまにいきなり顔を殴り、「お前じゃない」などと言って〇〇方面に向かって走っていった。監視カメラによると、犯人は顔に複数の傷や治療した痕があったという。なお、被害者は軽い脳震盪だけで、命に別状はない』


これは、明らかにあの夜、九条に殴られてた人のことだ。


女子中学生に殴りかかったということは、九条を探しているのか。


彼女が危ない。


早く知らせなければ。


だがしかし、一瞬迷ってしまう。


九条から逃げ出した僕が、会っていいものなのだろうか。


いや、今はそんなことを考えている暇はない。


僕が気まずくても、彼女の命の方が大事だ。


僕は決心し、ベンチから立ち上がった。
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