死にたい君に夏の春を
そんな僕を見て、九条は何も言わず頷いた。


彼女は食後にでたゴミを片付け始める。


僕も空のカップをビニール袋に放り込んだ。


「あ、そうだ」


ふと思い出して、スマホをズボンのポケットから取り出す。


「これ」


ニュースの画面を開き、九条に渡した。


「なにこれ?」


「多分この前、お前が殴り倒してた人の事だと思う」


彼女は画面をまじまじと見る。


「それがどうしたの?」


「いや、ちゃんと読んだ……?お前に似た人が襲われたんだ。このままだと危ないって話だよ」


「それはちょっと、困るね」


「困るってどころじゃないでしょ……。だから、あまり外に出ない方がいい」


「危なくても、外には出るよ。青春したいもん」


命が狙われているかもしれないって時に、また青春の話か。


「死ぬまで怯えて閉じこもるより、いい思い出を作って殺された方がマシだよ」


死ぬ。


彼女は外に出ても出なくても、どっちにしろ死ぬんだ。


僕はまた忘れていた。


「……じゃあお前が死ぬまで、後悔しないような青春をしよう。僕達2人で」


「そうだね」


それは、死ぬことを楽しみにしている顔だった。


あと少しで、楽になれる。


そんな顔だ。
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