死にたい君に夏の春を
九条は言う。


「そうだ、どこか遠くに行かない?」


「どこかって、どこに?」


「この街出たことないからわかんないけど」


街を出たことすらないのか。


今の時代からしたらありえないことだな。


ふと僕は、九条に服を買ってあげようとしたことを思い出す。


「じゃあ都心まで行こう。それで、ご飯食べたり……服とか買ったりしよう」


「服?」


「ほら、その制服じゃ目立つだろ」


単純にプレゼントしたいって、何故言えないんだ。


僕の意気地無し。


彼女は自分のスカートをつまんで見る。


所々ほつれていたり、汚れていたりしている。


「そうかな。まだ着れると思うけど」


「いやダメだろ、女子がそんなんじゃ……」


衣類に興味ないというか、もはや原始人の域。


僕が言い出さなきゃずっとこのままだったんだろうな。


「あ、それと……」


雑貨屋で買ったチョーカーのことを思い出し、ビニール袋から取り出そうとする。


渡すとなると、少し子恥ずかしい気分になる。
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