死にたい君に夏の春を
気づけば夕方。
燃えるような赤い光が街を照らしている。
やけに綺麗な空だったので、僕達は屋上に行き、一緒に座りながらその光景を眺めていた。
「私、死ぬ時はここで夕日に包まれて死にたいな」
九条は夕日に手をかざし、そう言った。
「意外とロマンチストなんだな。
でも僕は賛成しない」
「なんで?」
「夜になると発見が遅れるから」
「……君は現実的すぎ」
「早く見つけてもらえれば腐敗も進まないだろ」
自殺の後処理というのは大変なものだ。
警察の人達とかの苦労も考えると、迷惑をかけない方法というのも大切である。
「自殺の後のことも考えるなんて、高階くんらしいね」
「僕らしい?」
「うん。真面目っぽい」
「……ただ臆病なだけだよ」
僕らしさ、か。
自分ではよく言うけれど、人に言われたのは初めてだ。
九条は僕を見て、そして言った。
「高階くんはさ、人に迷惑かけずにかっこよく死ねる方法ってわかる?」
「かっこよく死ねるって……。うーん、海に飛び込むとか?」
「なるほど、その手があった」
「でも魚に迷惑がかかるな」
「魚のことまで心配しちゃうんだ。じゃあもう方法なくない?」
確かに、環境のことを考えると一気に選択肢が減ってしまうな。
「じゃあ火山に飛び込むとか」
「おお、その発想はなかった。すごいね」
感心するような目で見てくる。
いや、そこまで名案でもないだろ。
現実的じゃないにも程があるから。