死にたい君に夏の春を


九条に必要な分のお金を渡し、見送った。


わかってはいたが、自分で言い出しといて人にお金を借りるなんてな。


別にお金なんか有り余ってるから大したことは無いけれど。


僕はその辺に落ちてたバケツに水を入れ、花火の準備をする。


屋上から見た空は、もう暗くなりかけていた。


九条は大丈夫だろうか。


暗くもなれば不審者は出るし、危ないに決まっている。


連絡手段があっても不安なものは不安だ。


九条が出掛けてからそろそろ15分経つだろうか。


この短い時間がものすごく長く感じる。


僕は屋上の柵に手をかけて、そんなことを考えていた。


「おまたせ」


後ろから急に声がして、すぐに振り返る。


「な、なに?」


キョトンとした顔の九条がそこにいた。


「……おかえり」


「ただい、ま?」


あまりにも彼女の気配が無さすぎたのか、僕が考え事をしていたからなのか。


声がして普通に驚いてしまった。


「はい、買ってきた」


右手で持ったビニール袋を僕に見せる。


手持ち花火と着火ライター以外にもなにやら入っているように見えるんだが。


余計なものまで買ってきたのだろう。


5000円も渡さなきゃよかったと、今頃後悔した。


「それ、何入ってんの……?」


「お菓子とお酒」


「さ、酒!?」


酒って、未成年は買えないはずだろう。


「飲んでみたくてさ。あ、これ以外はちゃんとお金払ったよ?」


そういう問題じゃない。


というかナチュラルに万引きすることにもはや驚かなくなった。


「未成年は飲んじゃだめだろ」


「高階くんは堅いなー。結構みんな飲んでるよ」


「え、そうなのか?」


まさか僕が遅れているだけなのか。


「いや嘘だけど」


弄ばれただけであった。
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