死にたい君に夏の春を
「そんなこといいからさ、早く花火やろうよ」


僕の動揺を無視して、九条は袋から手持ち花火を取り出す。


別に良くはないけれど、今更何を言っても無駄なんだろう。


僕も着火ライターの準備をした。


「つけてつけて」


彼女がすでに持っていた花火の先に火をつけた。


一瞬でその光はバチバチと音を立て、緑色に灯る。


完全に暗くなった今では、その光が一際目立つ。


「わ、なにこれ」


初めて花火を見たのだろう。


子供のようにはしゃぐ彼女の姿がそこにはあった。


僕も花火をこんな間近で見るのは初めてだし、思ったよりも花火の美しさに見とれてしまっている。


そして花火の光は予兆もなくすぐに消えてしまい、静けさだけが残った。


その輝きは眩いものだったが、悲しく散ってしまった。


それはまるで、今の僕らのようであった。


「意外と短いんだね」


残念そうに、消えた花火の先を見る九条。


「まぁ、まだあるし大丈夫だよ」


僕は別の花火を袋から2本取り出した。


「そうだね」


彼女は消えた花火を水の入ったバケツに入れ、新しい花火を受け取った。
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