死にたい君に夏の春を
正直、花火なんて何が楽しいんだろうと疑問に思っていた。
しかし、花火の光を見ているとなんだかドキドキする。
九条が花火を振り回したり、投げたりと危険な遊び方ばかりするからドキドキしているのかもしれないが。
こうやって2人で花火をすると初めて夏らしさを感じて、ここが非現実的な空間のようだ。
あっという間に時間は過ぎて、線香花火が最後に2本余った。
さすがに線香花火を投げるのはまずいので、九条を落ち着かせてからそっと火をつける。
「地味だね」
パチパチと静かに音を立てる線香花火を見て、彼女はそう言った。
「この地味さがいいんだろ」
僕は今までやった花火の中で、これが一番好きかもしれない。
ガラス玉のようにぷっくりとしていて、いまにも消え入りそうな火花。
とても儚くて、綺麗だ。
「あ、落ちちゃった」
僕よりも先に、彼女の線香花火の光はコンクリートの上で溶けていった。
「僕の勝ち」
「いつの間に勝負してたの?」
そう言いながらも、負けて悔しそうな九条。
後を追うように、僕の線香花火もすぐに落ちた。
「あー。楽しかった」
立ち上がり、彼女は腕を伸ばす。
「花火も悪くないな」
「素直に楽しかったって言えばいいのに」
「……楽しかったよ」
気恥ずかしくて、彼女から目を逸らした。
下を向いてても、僕の言葉を聞いて満足そうな彼女の顔が目に浮かぶ。