死にたい君に夏の春を
その顔を見るとつい怖くなって、話をそらそうとする。


「そ、そうだ。明日早めに出るから、もう帰るよ」


僕は食べ終わったチョコレートの袋をビニール袋に入れ、立ち上がる。


「帰るの?」


「いつまでもここにいちゃ悪いだろ」


「……また泊まっていけばいいのに」


なんてこと言い出すんだ。


また、眠れない夜を過ごすことになるぞ。


「い、いや。着替えもしたいし、やっぱり帰るよ」


またあの父親がいる家に帰るのは気が引けるが、僕もそろそろぐっすり寝たい。


それに明日の為にも、一応お金を補充しておかなければならない。


「そっか。じゃあまた明日ね」


残念そうにしている九条を見て、少し罪悪感。


「朝の9時に来るから、それまで起きてろよ」


「わかった」


そうして、僕は屋上からの階段を降りる。


ほとんど明かりがなかったので、スマホの光を頼りに進んでゆく。


こんなところに女子中学生を1人にしておくのは心配だが、九条は今までこうやって生活してきたんだ。


きっと大丈夫だろうと、そう安心していた。
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