死にたい君に夏の春を


9時、時間通り。


僕はビルの3階の部屋に入る。


昨日のゴミやらなんやらが散らかっている。


だがそこに、九条の姿はなかった。


嫌な予感がした。


もしや。


そんな最悪な展開は想像もしたくない。


冷静になって、屋上にいく。


涼しい風が吹きながらも、誰もいなかった。


嘘だ、本当にいなくなってしまったのか。


思わず、膝から崩れ落ちる。


ただただコンクリートの床を見つめる。


「あれ?もう朝?」


遠くから、腑抜けたような声が聞こえた。


とっさに顔を上げると、小さいテントから顔を出す九条がいた。


「ん、おはよう?」


彼女は目を擦りながら、そう言った。


……忘れていた。


なんでテントの存在を忘れていたんだ。


たまにここで寝ていることは聞いてた。


1晩寝たはずなのに、まだ疲れているのだろうか。


「あ、今日出掛けるんだっけ?」


「……朝早いって言っただろ」


「忘れてたや」


忘れられていたのが、なんだか悲しい。
< 119 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop