死にたい君に夏の春を
9時、時間通り。
僕はビルの3階の部屋に入る。
昨日のゴミやらなんやらが散らかっている。
だがそこに、九条の姿はなかった。
嫌な予感がした。
もしや。
そんな最悪な展開は想像もしたくない。
冷静になって、屋上にいく。
涼しい風が吹きながらも、誰もいなかった。
嘘だ、本当にいなくなってしまったのか。
思わず、膝から崩れ落ちる。
ただただコンクリートの床を見つめる。
「あれ?もう朝?」
遠くから、腑抜けたような声が聞こえた。
とっさに顔を上げると、小さいテントから顔を出す九条がいた。
「ん、おはよう?」
彼女は目を擦りながら、そう言った。
……忘れていた。
なんでテントの存在を忘れていたんだ。
たまにここで寝ていることは聞いてた。
1晩寝たはずなのに、まだ疲れているのだろうか。
「あ、今日出掛けるんだっけ?」
「……朝早いって言っただろ」
「忘れてたや」
忘れられていたのが、なんだか悲しい。