死にたい君に夏の春を


九条がさっさとカップ麺を食べ終わったら、僕達は外に出た。


朝とはいえ、やはり夏は暑い。


汗を流しながらも、2人で駅まで歩いて行く。


田舎の雰囲気が漂うこの街では、あまり人通りは多くない。


15分ほど歩いて、寂れた駅に着いた。


「私電車乗るの初めて」


僕が目的地への切符を買っていると、彼女はそう言った。


そういえば、僕もあまり乗ったことがない。


最後に乗ったのは、確か母親の葬式の日だ。


幼いながらも、1人で会場に行ったのを覚えている。


修学旅行など乗る機会もあったが、僕は何かしら理由をつけて休んでいたから実質8年ぶりくらいか。


「じゃあ知らないだろうな。電車が走ってる時にジャンプすると、体だけ進行方向から逆に飛んでいくんだ」


「え?そうなの?」


僕の言葉に彼女は驚き、同時に目を輝かせる。


「まぁ嘘だけど」


「…………」


「痛っ」


いきなり、無言でふくらはぎを蹴られる。


彼女を見ると、頬をぷっくり膨らませてる。


嘘をつかれたことに怒ったようだ。


昨日の仕返しをしたつもりだったが、捻挫した足を蹴られるという代償を得た。


怪我人に追い討ちをかけるなんて、慈悲というものはないのか。
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