死にたい君に夏の春を
切符を改札機にいれ、中に入る。


プラットホームには人がぽつぽつといるだけで、あまり多くはない。


電車が来るまで待とうと、僕はベンチに座った。


しかし、九条は座ろうとしない。


「まだ怒ってるのか?」


「怒ってない」


「悪かったって。まさか信じるとは思わなかった」


彼女は僕の嘘を信じた自分が恥ずかしくなったのか、顔が少し赤くなる。


「信じてないし」


完全に信じてただろ、その顔は。


僕は仕方なく、財布から200円を出して彼女に渡す。


「これでジュース買ってきていいから、許してよ」


「え、ほんと?やった」


チョロいにも程がある。


彼女は200円を握りしめて、近くの自動販売機に速攻で向かっていった。


金に目が無さすぎて、いつか酷い目に会うんじゃないかと心配するくらいだ。


僕は財布をしまい、向かいのホームを眺める。


するとすぐに、ジュースを買ってきた九条が戻ってきた。


大事そうにペットボトル握って、僕の隣に座る。


「早いな」


「電車、来ちゃうかと思って」


ふと見た電子案内板によれば、もうすぐ来るらしい。


そう思っていたら、すでに電車はこちらに向かっていた。


「行こうか」


僕は立ちあがり、九条も飲んでいたオレンジジュースの蓋を閉じてついてきた。


振り返って、彼女に言う。


「あ、ジャンプするなよ」


「しないってば」


さっきのことを思い出したのか、また頬が赤くなった。
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