死にたい君に夏の春を
地下鉄でおよそ1時間。
眠そうに座っている九条の隣で、僕はどうすればいいのかわからずに適当にスマホをいじる。
ゲームのアプリを開いたりすぐ消したり、意味もなく時間を過ごす。
だんだん人も多くなってきて、クーラーがきいた車内でも暑ぐるしい気分だ。
目的地に着くと、ほとんど寝ていた彼女を急いで起こし、電車を降りる。
人に流されながらも、改札を通って外に出た。
高いビルに、多すぎる人、四方八方から聞こえる様々な音。
これが都会なのかと、全体を眺める。
九条は初めての光景を見て、眠気が飛んだように感動した表情をする。
ここで田舎者みたいに僕も都会に驚いていたらなんだか居た堪れないと思い、咳払いをする。
「さっさと行くぞ」
「あ、うん」
スマホでこっそり地図を見て、目的地に向かって歩き出す。
「すごいね、こんなに人がいるの初めて見た」
「そうか?ここではこれが普通だぞ」
「そうなんだ……。あ、嘘じゃないよね?」
「嘘じゃないって」
すっかり疑われるようになってしまった。
都心なんて来たことないから、適当な事言っただけなんだけれど。