死にたい君に夏の春を
彼女は適当に店の中に入って、服を眺める。


「うーん、半袖しかないね」


「当たり前だろ……
っていうか、また長袖着る気か?」


「だって半袖やだし」


こんな暑いのにどんな理由なんだ。


暑そうだから服を買ってやろうとしたのに、彼女の行動には理解に苦しむ。


そうやって商品を見ていると、1人の店員が近づいてきた。


「何かお探しでしょうか?」


ニコニコとこちらに向かって話しかけてくる。


「あ、あの、えっと」


急な出来事に僕はどう返していいかわからなくなった。


だが、九条は何も動じず。


「長袖ってあります?」


「ええ、こちらです」


そうやって案内され、店員について行く。


「…………」


「なに?高階くん」


「いや、なにも……」


こなれた感じを出すだなんて、二度と言えたもんじゃないな。


「こちらが秋物の服ですね」


店の奥の方まで来たら、少ないが一応長袖の服が置いてあった。


ワンピースやシャツなど、おしゃれなものばかり。


「ではごゆっくり」


と言って、また店員は店を徘徊する。


「どれがいいかな」


九条は一つ一つ見定めながら、そう言った。


僕に聞かれてもわかるはずないだろ。


だが聞かれた以上、なにか答えなければ。


「ワンピースとか、楽そうじゃね」


適当なことを言った。


そうしたら、彼女はワンピースを取り出した。


「確かにいいかも。これにしよっかな」


「い、いや、即決?」


「上下買うの面倒臭いし」


確かにそうだけど、それもそれでどうなんだ。


「一応試着してから決めろよ」


「試着?」


試着の意味もわからないのか。


さっきの失態もあったけれど、仕方なく僕は店員に話しかけた。
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