死にたい君に夏の春を
九条が着替えている間、僕は外で待った。
店に入る客と目が合うのが嫌で、ついスマホをいじってしまう。
来る前はあんなに胸が踊っていたのに、今は居心地が悪くてそんなこと思っていられない。
しばらく待つと、試着室のカーテンが開く。
そこには、白と黒のチェック柄のワンピースを着た九条の姿。
白い襟に着いた黒のリボンが揺れて、可愛らしい雰囲気である。
「どうかな」
「似合う……と思う」
「思う?」
なにか期待するように、僕を見る。
「……似合うよ」
彼女はまた、昨日と同じように満足そうな顔をした。
「これにする」
九条は振り返って、自分が映った鏡を見つめる。
余程気に入ったのだろう。
来てすぐに決めてしまっていいのかと心配になるが、僕は、いつまでもここに居るのが耐えられない。
早く出たいという思いで、店員に購入を伝える。
すると、試着室の下を見て店員は言った。
「そちらのワンピースに合う靴もお探ししましょうか?」
「え?」
九条のスニーカーを見てみると、少し汚くて底の部分も剥がれかけていた。
確かにこのままだと小綺麗なワンピースとバランスが悪い気がする。
「じゃあ、お、お願いします」
「ふふ、彼女さんへのプレゼントですもんね」
そう言われて、ぶわっと顔が熱くなる。
「ち、ちがっ」
その僕の言葉も届かず、店員はどこかに行ってしまった。
「どうしたの?」
試着室から出てきた九条が話しかける。
「違うからな!?」
「な、なにが?」
ああ、穴があったら入りたいとはこういうことか。