死にたい君に夏の春を
ここの映画館はこの辺で1番規模が大きいので、上映している映画の数が多い。
いざ選ぶとなると、迷ってしまう。
ましてや映画なんて好んで見たことがないので、選び方がわからない。
「九条、好きなの選んで」
結局人任せにしてしまうのだ。
彼女は映画のポスターを興味津々にじっくりと見ている。
映画を観るのも初めてなのだろう。
「これがいい」
彼女が指さしたのは、沢山の猫のイラストが描かれたポスター。
日本のオリジナルアニメーションらしい。
「これでいいのか?」
「うん」
そう言う彼女の目はとても輝いていて、すぐにでも観たそうである。
しかしその映画は明らかに女児向けのもので、ポスターを見ているのも子供連れの家族ばかりだ。
僕がこれを観るのはちょっと……。
「嫌?」
不安そうに、僕を見つめる。
「い、いや……九条がこれがいいって言うなら、別にいいけど」
そう言われて彼女はすぐに笑顔になり、早く観ようと僕を急かす。
猫の映画を観たいだなんて、意外と子供っぽいところがあるらしい。
僕が観に行くのは少し勇気がいるけれど。