死にたい君に夏の春を
それからの時間はあっという間だった。
クレーンゲームで僕が頼まれて猫のぬいぐるみを取ろうとしたら1万円以上使っていたり、九条が遊園地でコーヒーカップを回しすぎて僕の気分が悪くなったり、災難ばかりだった。
ほとんどその災難を起こしているのは九条だということを、彼女は気づかず純粋に楽しんでいた。
しかし悪いことが起きるから楽しくないという訳では無い。
彼女の無鉄砲さは元々わかっていたし、今更驚くことでもない。
前までは面倒なことが大嫌いだったが、今ではそれすら楽しく思える。
クレーンゲームで1万円使って取った時の達成感は凄かったし、コーヒーカップの高速回転は絶叫マシーンぐらい楽しかった。
全部九条がいたから、そうやって思うようになれた。
カフェのテラスで僕達がお茶を飲んでいる時、彼女はこう言った。
「明日はなにしよっか」
「もう明日のこと考えてるのか?」
「今日だけじゃ足りないよ。明日も、その次の日も遊ばなきゃ気が済まないもん」
「明日も、その次の日も災難が起きるのかぁ」
「だめ?」
僕は持っていた紅茶のカップを置いて、言った。
「いや、それも悪くない」
そして、九条はふんわりと優しげな表情をする。
この幸せが、いつまでも続けばいいのに。
そう、思っていた。