死にたい君に夏の春を
「そろそろ帰ろう」


空はまだ明るいが、もう17時である。


帰る頃には日が落ちかけているだろう。


九条のシナモンロールも食べ終わり、駅に向かう。


電車は満員で座れなかったので、2人で高い吊り革を指の先で掴んだ。


疲れた体にその体勢はあまりにも辛くて、明日の筋肉痛は覚悟しなければならないと思う。


けれど、満員電車にも気にせず眠たそうにウトウトしている彼女を見て、安心する自分がいた。


しばらくすると、電車は地下から地上に出てくる。


それと同時に眩いオレンジ色の光が差し込み、思わず手をかざす。


楽しい一日は終わった。


立ちながら目を閉じている九条を見ると、なんだかしんみりとしてきた。


けれどまだ明日があって、その次もある。


青春はまだ終わっていない。



最寄り駅に着くと、彼女もそれに気づいて起きてきた。


帰り道、夕日で赤くなった道を僕達は歩いて行く。
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