死にたい君に夏の春を
歩いている途中、電柱に貼ってあったポスターに目が止まる。


「どうしたの?」


立ち止まった僕に、九条が話しかける。


「25日に納涼祭りがあるらしい」


「のうりょ……?」


「夏祭りだよ。食べ物の屋台があったり、花火とかやったりするやつ」


「え!花火?」


「空に打ち上げる、僕らがやったやつよりもっとでかい花火。毎年すごい音してるけど、聞いたことない?」


「うーん、気にしたことないや」


あれだけの大きな音に気づかないって、一体何してるんだ。


「じゃあ、行ってみる?」


「……うん。行きたい」


今日は23日だから、2日後だ。


早速次の予定ができてしまった。


少し前の僕だったらありえないことだな。


僕は嬉しさを隠すように、右手に紙袋をぶら下げながら伸びをした。


少しの沈黙の後、彼女が口を開く。


「ねぇ、家まで競走しようよ」


「え?なんで?」


「ちょっと走りたい気分」


「いや、どういう心理……」


そんな僕を無視して、勝手に走っていく九条。


全く、なんでこんな疲れているのに走んなきゃいけないんだよ。


僕は足の速い彼女に、全力でついて行くことになった。
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