死にたい君に夏の春を
ビルに着く頃には、汗だくで呼吸もままならないほどになっていた。
それに対して九条は、荒い呼吸こそしていたが、あまり疲れた様子はない。
「はぁ……お前、速すぎ……」
「高階くんが遅いだけでしょ」
それもあるけれど、確実に九条の速さは異常だ。
僕は一息ついて、腰に手を当て伸びをする。
その時気がついた。
ポケットに、財布が入っていない。
「あ、あれ。あれ?」
「どうしたの?」
ズボンの前のポケットや、猫のぬいぐるみが入った袋を探すが、どこにもない。
「やばい、財布落としたかも」
まだ現金が数千円入っていたはず。
思わず出来事に、焦りを感じる。
「走った時に落としたんじゃない?」
「そうだといいんだけど……」
切符を買った時が最後だから、電車か道で無くしてしまったのだろう。
「袋、ビルに置いておくから探してきなよ」
「わかった。ありがとう」
ぬいぐるみの袋を彼女に渡し、来た道を警戒しながら進む。
なんだってこんな時に。
落としてしまった自分にイラつく。
だんだん日が落ちてきて、道が暗くなる。
早くしないと完全に探すことが出来なくなってしまう。
その気持ちがさらに焦らせる。