死にたい君に夏の春を
またいつものように


気づけば、外は明るくなっていた。


今までの疲れが出ていたのか、だいぶ長く寝ていたらしい。


隣を見ると、気持ちよさそうにすやすやと眠る栞の姿。


まだ彼女の手を握っていたようだ。


昨日の出来事を思い出し、すぐに手を離す。


今頃になって恥ずかしくなってきた。


心を落ち着かせようとスマホを取り出す。


16時。


朝寝坊なんてもんじゃない。


半日以上も寝ていて、胃の中はもう空っぽだ。


こんなに寝たのは人生で初めてかもしれない。


僕は起き上がり、食料の入ったビニール袋を漁る。


カップラーメンが5個。


なんとか一日分は足りるだろう。


疲れて寝ている九条を起こすのも癪だから、一つだけカップラーメンを作る。


水を電気ポットに入れ、沸いたらトクトクとカップに注ぐ。


時間を確認しながら、僕はぼーっと考え事をしていた。


平和だ。


昨日のことがあったから、今の状態がどれだけ幸せなのかが身に染みる。


あの夜、栞の父親は僕が放った弾で呆気なく倒れた。


背中に1発くらい、それからピクリとも動かなくなった。


死んでいるのか、はたまた生きているのかわからない。


でもあの傷じゃ、もうここに来ることはないだろう。


それこそ、栞が死ぬまでの間は。


拳銃は捨てた。


弾倉と別々にその辺の川に捨てたから見つかるのは後日だろう。


僕の犯したことは、罪に問われるのだろうか。


見つかれば、少年院に入れられるのか。


だが後悔はしていない。


彼女を助けられただけで、いいんだ。
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