死にたい君に夏の春を
「あのさ、このこと聞いていいかわからないけど、栞ってなんでそんな世間知らずなんだ?」


言葉を選ばず、単刀直入に聞く。


すると彼女は、迷わず答えた。


「小さい頃からずっと家にいたからかな。お母さんがいた時も、外は危ないからって出させてくれなかった」


世間知らずなのは、父親の虐待のせいではないのか。


過保護すぎたから、世の中のことを全く知らない人に育ってしまったのだろう。


「……まるで僕と真逆だな」


ボソッと、呟いた。


そんな僕を見て、彼女は言った。


「私さ、一颯のこと何も知らない。お母さんのことも教えてくれなかったし……」


「あんまり言いたくはないかな」


「そう、だよね……」


「でも、栞になら話していいかもしれない」


あの時は、ただの嫉妬で言いたくなかった。


でも今は、彼女に僕のことを知って欲しい。


そして、抱え込んだもの全て吐き出して楽になりたい。


「僕の母親は、薄情なんだ」


僕の身に起こったこと、全てを話した。
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