死にたい君に夏の春を


話終わると、沈黙が続いた。


しばらくして、栞はその小さな口を開く。


「……そんなことがあったんだね」


僕は、何も言わない。


「でも、お母さんはちゃんと一颯のこと好きだったと思うよ。好きじゃなきゃ、入学式の日を覚えてるはずないもん」


「そうだと、いいな」


栞の励ましの言葉は、とても優しかった。


苦痛だった記憶が、和らいでいく。


母さんは、僕のことを忘れてなんかいなかった。


栞は一呼吸おいて、こう言った。


「やっぱり、私たち似てるよ」


親の愛の形が歪んだ栞と、親からの愛を知らない僕。


正しい愛され方をしなかった、未熟な僕達。


「そうでもないよ」


僕は笑う。


それに釣られて彼女も微笑んだ。


気づいた時には、ラーメンはほとんど伸びきっていた。
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