死にたい君に夏の春を


顔がわかりにくくなるように、暗くなるまで待つことにした。


17時半になる頃、栞が急に部屋を出て行った。


絶対にここでまってて、と念押しされ、30分が経つ。


一体彼女は何をしているのだろうと気になって仕方がない。


しばらく待ったら、部屋の外から声が聞こえた。


「一颯、すこし後ろ向いてて」


その言葉に従い、後ろを向く。


「いいよ」


そう言われ、ゆっくり彼女の方へ振り返る。


そこには、青い花が描かれた白い生地のシンプルな浴衣を着た栞の姿。


「え、な、なんで?」


予想外で、咄嗟に疑問しか浮かばなかった。


「ふふ、内緒」


正規のルートでは手に入れてないんだろうな。


「ね、どう?」


彼女は袖を掴み、僕の前でぐるりと回って見せる。


「かわいい……」


似合うよ。


「え?」


「……あれ?」


自分で言ったことを時間差で思い出す。


今、口に出したことと思ったこと、逆に言わなかったか?


「ほんと?」


「……うん」


栞は後ろを向いて小さな声で。


「やったぁ」


…………。


ああ、なんだか今日は一段と暑いな。


僕は垂れた汗を、一生懸命手で拭いた。
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