死にたい君に夏の春を


日が落ちたら、栞と2人で夜道を歩く。


道はいつもより人通りが多く、浴衣を着た人も少なくはない。


遠くからは盆踊りの音楽や、賑やかな人の声ばかり聞こえてくる。


「思ったんだけど、それどうやって着付けしたんだ?和服ってコツとかいるんじゃないのか?」


「説明書みたいなのあったから、見たら1回でできた」


そのたまに発揮される謎の才能はなんなのだろう。


そんな簡単に出来るものなのか。


僕は感心しながら、栞の美しい浴衣姿に見とれてしまう。


和服というのはなんというか、こう、グッとくるものがあるのだな。


人々がわざわざ祭りで着る意味がわかった気がした。



15分ほど歩いたところで夏祭りの会場に着く。


元々小さい神社なのだが、広い駐車場を活用して多くの屋台が建ち並んでいる。


既にお祭り騒ぎで、人でごった返している。


所々で、警察官が見張りをしていた。


僕らはすぐ近くで戦隊ものの仮面と、この間見た映画の猫の仮面を買った。


ここで付けるのは少し恥ずかしいが、恥を捨てて戦隊ものの仮面をつける。


「あは、一颯それ似合う」


「……馬鹿にしてるだろ」


なぜこの提案を出してしまったのだろうと、少し自分に悔いる。


「あ、ねぇ。あれ食べたい」


栞が屋台を指さす。


「切り替えが早いな……。はいはいわかったから」


僕の手首を掴み、走り出した。
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