死にたい君に夏の春を
「なんで着いてきたの?」


前触れもなく、突然後ろから声が聞こえ、全身が凍りついた。


振り返ると、そこにはもう逃げたと思っていた九条がいた。


「い、いや、それは織部が……」


そう言いかけて、口ごもる。


言い訳なんて僕らしくない。


ここ数日、こいつのせいで調子が狂ってしまった。


本当ならこんなに、彼女のことが気になるはずがないのに。


そして彼女は、僕を見て言った。


「不思議だね、君は」


じっと、その暗黒のような目で見つめる。


「不思議?僕が?」


「うん」


不思議なのは九条のほうだろう。


何を考えてるのかわからないその顔。


僕の内側を見られているような、そんな気分になってくる。
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