死にたい君に夏の春を
「たかがいくん」


およそ右の方向から、僕のものであろう名前を呼ばれた。


「あ……九条」


やはり、あの長袖でぶかぶかのセーラー服を着た九条 栞。


どうやらちょうど、隣の教室から出てきたらしい。


最近のこの遭遇率はなんなのだろう。


むしろ不気味なくらいだ。


「な、なんでいんの?」


「補習だから」


「あぁ、そう……」


あの九条でも、夏休みの補習はちゃんと出席するのか。


なんとなく気まずくなる。


「じゃ……」


そう言って僕は九条を通り過ぎようとする。


しかし。


「ねぇ」


彼女の声が、僕の足を止めた。
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