死にたい君に夏の春を


5分ぐらい経っただろうか。


いや、正確にはわからない。


もっと短い時間だったかもしれないし、長かったかもしれない。


時間の感覚が狂うほど、唖然としていた。


「うう…」


男の口から発せられたうめき声で、はっと気がついた。


やはり生きていたのか。


だがここにいてはまずい。


そう思って来た道を慌てて戻っていく。


その男を助けるような考えなど、全くなかったのだ。


とにかく早く、誰にも見つからないように走る。


疲れすら忘れて走っていたら、いつの間にか家のアパートに着いていた。


汗ばみながらも、鍵を開けて中に入る。


ふぅ、と呼吸を整える。


そこで思い出した。


「……晩飯、買い忘れた」


結局その日の夕飯は、賞味期限間近のメロンパン1つだけだった。
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